【令和4年/2022年】業務改善助成金・通常コースの申請と活用
2022/06/10
税理士法人CONFIANCEです。
全国の最低賃金が上昇傾向にある今、事業所内の最低賃金を引上げるべきかと悩む中小企業もいらっしゃるかと思います。賃上げに対する支援策は、以前に紹介した「賃上げ促進税制」もありますが、「業務改善助成金」というものもあります。
業務改善助成金は、中小企業や小規模事業者が、生産性向上のために「社内の設備」「従業員の教育訓練」に投資して、最低賃金を引き上げると、受けることができる助成金です。
2022年に申請できる業務改善助成金の通常コースについて、内容や対象者、申請方法について解説します。
業務改善助成金とは
業務改善助成金は、生産性を向上させ、「事業所内で最も低い賃金(事業所内最低賃金)」の引き上げを図る中小企業、小規模事業者を支援する助成金です。
事業場内の最低賃金を一定額引き上げた場合に、その設備投資等に要した費用(機械設備、コンサルティング導入、人材育成、教育訓練費なども含まれる)の一部を助成するものです。
事業場とは
企業全体ではなく、支社や営業所、店舗、工場のように、それぞれの業務が行われている場所のことです。事業場の適用範囲は原則として、同じ場所にあれば一つの事業場とみなします。例外として、労働状態が違う場合は別々の事業場とみなします。
例えば、工場内に食堂が併設されている場合、工場で製造を行う労働者と食堂で料理を作る労働者は業態が全く異なるため、別々の事業場とみなすことになります。また本社と離れた場所にある営業所でも、営業所では1〜2人で営業業務のみを行っており独立性が無いものは、本社と合わせて一つの事業所とすることができます。
なお、業務改善助成金には、「通常コース」と、コロナ禍の影響を受けた企業向けの「特例コース」があります。
業務改善助成金 通常コースの概要
事業改善助成金の目的は、「賃金引き上げを行う企業の負担軽減」と、「企業が賃金引き上げのための環境を整えさせる」という2点です。
支給要件
1
業務改善助成金の対象となるには、以下4つの支給条件を満たさなければなりません。
支給要件
- 賃金引上げ計画を策定し、事業場内最低賃金を一定額引き上げること
- 引上げ後の賃金額を支払うこと
- 生産性向上に資する機器、設備などを導入して業務改善を行い、その費用を支払うこと※
- 解雇、賃金引き下げ等の不交付事由がないこと
※単なる経費削減のための経費、職場環境を改善するための経費、通常の事業活動に伴う経費などは除きます。
生産性要件
2
生産性を向上させた事業所が業務改善助成金を利用する場合、助成金は割増しされます。
生産性要件
助成金の申請時の直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて6%以上伸びていること
または直近の会計年度における生産性が、その3年度前に比べて1%以上(6%未満)伸びていること
生産性要件の算定の対象となった期間中に、事業主都合による離職者を発生させていないことが必要です。
また「1%以上(6%未満)」伸びている場合は、金融機関から一定の事業性評価を得ている必要があります。
生産性は厚生労働省の「生産性要件算定シート」で計算することができます。
※厚生労働省のホームページが開きます。
助成対象事業場
3
助成対象事業場は、次の二つの要件を満たす事業場が対象となります。以下の要件に当てはまれば、過去に業務改善助成金を活用した事業場も助成対象となります。
助成対象事業場
- 事業場内最低賃金と地域別最低賃金の差額が30円以内
- 事業場規模100人以下
コース区分と助成額
4
引き上げ金額によるコース区分があります。令和4年度の申請受付中のコースは「30円コース」「40円コース」「60円コース」「90円コース」の4コースです。
さらに各コースごとに引き上げる労働者数に応じて助成上限額が設定されています。
30円コース
月引き上げ額:30円以上
引上げる人数 | 助成上限額 |
---|---|
1人 | 30万円 |
2~3人 | 50万円 |
4~5人 | 70万円 |
7人以上 | 100万円 |
10人以上 | 120万円 |
40円コース
月引き上げ額:40円以上
引上げる人数 | 助成上限額 |
---|---|
1人 | 45万円 |
2~3人 | 70万円 |
4~5人 | 100万円 |
7人以上 | 150万円 |
10人以上 | 180万円 |
60円コース
月引き上げ額:60円以上
引上げる人数 | 助成上限額 |
---|---|
1人 | 60万円 |
2~3人 | 90万円 |
4~5人 | 150万円 |
7人以上 | 230万円 |
10人以上 | 300万円 |
90円コース
月引き上げ額:90円以上
引上げる人数 | 助成上限額 |
---|---|
1人 | 90万円 |
2~3人 | 150万円 |
4~5人 | 270万円 |
7人以上 | 450万円 |
10人以上 | 600万円 |
助成率
5
助成率は次の通りです。
事業所内の最低賃金 900円未満 ※ | 4/5 | 生産性要件を満たした場合は9/10 |
---|---|---|
事業場内の最低賃金 900円以上 | 3/4 | 生産性要件を満たした場合は4/5 |
※ 対象は地域別最低賃金900円未満の地域のうち、事業場内最低賃金が900円未満の事業場に限り対象となります
【対象地域】
北海道・青森・岩手・宮城・秋田・山形・福島・茨城・栃木・群馬・新潟・富山・石川・福井・山梨・長野・岐阜・滋賀・奈良・和歌山・鳥取・島根・岡山・広島・山口・徳島・香川・愛媛・高知・福岡・佐賀・長崎・熊本・大分・宮崎・鹿児島・沖縄(令和4年4月現在)
業務改善助成金の申請から支給まで
業務改善助成金の申請から支給までの流れは以下の通りです。
助成金交付申請書の提出
1
業務改善計画(設備投資などの実施計画)と賃金引上計画(事業場内最低賃金の引上計画)を記載した交付申請書(様式第1号)を作成し、都道府県労働局に提出します。
助成金交付決定通知
2
都道府県労働局において、交付申請書の審査を行います。内容が適正と認められれば助成金の交付決定通知が届きます。
業務改善計画と
賃金引上計画の実施
3
申請時に作成した業務改善計画と賃金引上計画に基づき、設備投資や事業場内最低賃金の引き上げ等を行います。
事業実績報告書の提出
4
業務改善計画の実施結果と賃金引上げ状況を記載した事業実績報告書(様式第9号)を作成し、都道府県労働局に提出します。
助成金の額の確定通知
5
都道府県労働局において、事業実績報告書の審査を行います。内容が適正と認められれば助成金額が確定し、事業主に通知が届きます。
助成金の支払い
6
助成金額の確定通知を受けた事業主は、支払請求書(様式第13号)を提出し、助成金を受け取ります。
申請書に係る書類は厚生労働省のホームページより入手できます。また、申請先は各都道府県の労働局になります。厚生労働省のホームページよりご確認ください。
※厚生労働省のホームページが開きます。
申請書類の提出は郵送や電子申請もできます
厚生労働省では、新型コロナウイルス感染症の感染拡大防止に向けた取り組みとして、窓口の混雑を避けるため、申請書類の郵送や電子申請の積極的な活用を呼び掛けています。
郵送の際は、郵送事故防止のため、簡易書留など、必ず配達記録が残る形で郵送してください。また書類の不備や記入漏れにも気を付けましょう。
申請するにあたっての注意点
申請期限は令和5年1月31日までです。しかし、予算の範囲内で交付するため、申請期間内に募集を終了する場合がありますので、できるだけ早めに動き出すほうがよいでしょう。
交付申請書の提出前、交付決定通知書の通知前に実施したものは対象外になります。設備投資等の実施や助成金対象経費の支出は、交付決定後に行わなければなりません。
また、事業場内最低賃金の引上げは、交付申請書の提出から事業完了期日までであれば、いつ実施しても構いません。なお、事業完了の期限は令和5年3月31日です。
事業改善計画はどのような内容にすべきか
実際にどのようなものに対して業務改善助成金が交付されているのでしょうか。過去の事例をいくつか紹介します。
設備投資等の事例
- 原料充填機、食材カッター等の導入による作業効率の改善(製造業)
- POSレジシステム導入による在庫管理の短縮(卸業・小売業など)
- フォークリフトの導入による搬入時間の短縮(製造業・卸業・小売業など)
- リフト付き特殊車両の導入による送迎時間の短縮(医療・介護)
- 顧客、在庫、経理等の管理システム導入による業務の効率化
- 改修等におけるレイアウト変更
コンサルティングの導入・人材育成等の事例
- 専門家のコンサルティングによる業務フロー見直しによる業務改善
- 外部講師による従業員向けの研修
厚生労働省のホームページでは、業種ごとに活用事例が紹介されています。業務改善計画の参考に、ぜひご覧ください。
※厚生労働省のホームページが開きます。
まとめ
多くの中小企業や小規模事業者にとって、継続して費用の負担が増加する最低賃金の引上げはとても難しい課題です。
事業改善助成金は、中小企業や小規模事業者の生産性の向上を支援し、事業所内最低賃金を引上げを行うための制度です。さらに設備投資等による業務改善で実際に生産性が向上すれば、より多くの助成金を受け取ることができます。
賃上げに少しでも意欲のある企業はぜひ検討してみてはいかがでしょうか。
申請期間や助成要件は変更されることがありますので、業務改善助成金の活用をご検討される方は厚生労働省のホームページをこまめにチェックすることがおすすめです。
また、申請書類や事業改善計画をどうするか不安な方は、ぜひ当事務所へご相談ください。
賃上げに関する支援策としては令和4年四月に改正された「賃上げ促進税制」もあります。詳しくは下記より「賃上げ促進税制」の解説記事をご覧ください。
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